ブルンストロームステージ解説|上肢手指下肢の判定基準と臨床の極意
脳卒中片麻痺のリハビリテーションにおいて、患者の機能回復度合いを客観的に把握する指標として半世紀以上にわたり活用されているのが「ブルンストロームステージ(BRS)」です。スウェーデンの理学療法士シグネ・ブルンストロームが提唱したこの評価体系は、急性期から回復期、生活期に至るまで、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)が共通言語として用いる中核的なフレームワークとして定着しています。
回復過程における痙縮の消長や、屈曲・伸展の共同運動パターンから巧緻性のある分離運動への移行プロセスを6段階で精緻に分類する本手法は、臨床の実務評価だけでなくリハビリテーション系国家試験でも毎年のように問われる最重要テーマです。現場で迷いがちな判定の分かれ目や評価表の具体的な運用ルール、さらには2026年の最新知見を踏まえた回復予測のポイントまで、実践に直結する情報を体系的に解き明かします。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:ブルンストロームステージは脳卒中片麻痺の回復過程を「弛緩(I)」から「正常に近い分離運動(VI)」までの6段階で評価する世界標準の臨床指標。
- 要点2:上肢・手指・下肢でそれぞれ独立した判定基準が存在し、特にステージIII(共同運動のピーク)からIV(分離運動の開始)の移行判断が臨床上の最大の鍵。
- 要点3:国家試験対策の暗記にとどまらず、筋緊張(痙縮)の変化と神経学的回復メカニズムを連動して捉えることで、目標設定と予後予測の精度が飛躍的に向上する。
【2026年最新基準】ブルンストロームステージ(BRS)の基礎と脳卒中片麻痺の回復メカニズム
脳卒中による中枢神経系の損傷後、麻痺側四肢がたどる機能回復の道筋には一定の定型的なパターンが存在します。これを体系化したものがブルンストローム法(Brunnstrom Approach)に基づく回復段階分類です。大脳皮質からの下行性抑制が失われることで出現する原始的な反射や痙縮を、単に排除すべき異常反応として捉えるのではなく、随意運動再獲得への過渡的な足がかりとして肯定的に活用する点に本質的な特徴があります。
回復過程は神経生理学的に大きく3つのフェーズに分かれます。第1フェーズは発症直後の弛緩期であり、運動麻痺に加えて筋緊張の低下が顕著に現れます。第2フェーズは錐体路障害に伴う反射の亢進によって痙縮と共同運動パターンが出現・増強する時期です。そして第3フェーズでは、大脳皮質の再受容や運動野の再構築(脳の可塑性)が進むことで、関節を個別に動かす分離運動が可能となり、正常な協調運動へと近づいていきます。
日本脳卒中学会の診療ガイドラインや厚生労働省のリハビリテーション実施計画書においても、機能障害(Impairment)レベルを測定するベースラインとして広く採用されています。上肢・手指・下肢の回復速度や到達段階は必ずしも一致しないため、3部位を個別に厳密評価することが不可欠です。

【完全判定表】上肢・手指・下肢のステージI〜VIにおける具体的判定基準
臨床現場や評価実習で迷いを生じさせないために、上肢・手指・下肢それぞれのステージごとの判定基準とテスト動作を構造化しました。各部位の運動特性を正確に対比させながら把握することが肝要です。
| ステージ | 上肢(Arm)の判定基準 | 手指(Hand)の判定基準 | 下肢(Leg)の判定基準 |
|---|---|---|---|
| ステージ I (完全弛緩) | 随意運動は全くみられない。他動運動に対して抵抗がなく、完全な弛緩状態。 | 随意運動および反射的運動は全く認められない。 | 随意運動なし。下肢全体が弛緩しており筋緊張は極めて低い。 |
| ステージ II (連合反応・痙縮出現) | わずかな屈曲または伸展の共同運動が出現。軽度の痙縮が触知される。 | わずかな自動屈曲運動が出現。鉤握り反射などの原始反応がみられる。 | 最小限の随意運動が出現。連合反応によってわずかな関節運動が誘発される。 |
| ステージ III (共同運動の完成・痙縮極期) | 屈曲共同運動または伸展共同運動を随意的に行えるが、分離運動は不可能。痙縮は最強。 | 集団握り(全指屈曲)が可能。随意的な手指の伸展(離す動作)は不可能。 | 座位または立位で股・膝・足関節の全屈曲、全伸展の共同運動が随意的に可能。 |
| ステージ IV (分離運動の開始・痙縮減退) | 共同運動から外れた運動が可能。 ①手背を腰の後ろに回す ②肘伸展位で肩関節前方90°挙上 ③肘90°屈曲位での前腕回内外。 | 横つまみ(側腹つまみ)が可能。母指の伸展によるカードのリリース、わずかな半随意的な伸展。 | 座位で足底を床につけたまま膝関節90°以上の屈曲、および踵を床につけた状態での足関節背屈が可能。 |
| ステージ V (分離運動の進行・協調性向上) | より難度の高い分離運動が可能。 ①肘伸展位で肩外転90° ②肘伸展位で肩前方頭上挙上 ③肘伸展位での前腕回内外。 | 球握り(ボール把持)、円柱握り(筒把持)が可能。全指の随意的な伸展が可能となる。 | 立位で膝伸展位での股関節伸展、立位で股関節伸展位での膝関節屈曲(下腿の後方挙上)。 |
| ステージ VI (協調運動の回復・ほぼ正常) | 個々の関節運動が完全に分離。健側とほぼ同等のスピードで滑らかな運動が可能。 | 全ての把握動作(指先つまみ等)が自在。個別の手指運動、協調した手指の進退が可能。 | 座位での下肢の内外旋、立位での足関節内外反の随意的なコントロールが可能。 |
【実態検証】臨床現場でセラピストが直面する判定の迷いとリアルな判断基準
回復期リハビリテーション病棟や急性期の現場において、多くのセラピストが頭を悩ませるのが「ステージIIIとIVの境界線」および「ステージIVとVの境界線」のグレーゾーン判定です。教科書通りのクリアな運動パターンを示さない症例に対して、現場ではどのような基準でジャッジが下されているのでしょうか。
病棟カンファレンスや臨床指導の場において最も頻出する議論は、代償動作をどこまで許容するかという点です。例えば、上肢ステージIVのテスト動作である「肘伸展位での肩関節前方90°挙上」を行う際、体幹を後傾させたり、肩甲骨を過剰に挙上(代償)しながら腕を持ち上げるケースが多発します。
日本理学療法士協会の症例報告等でも指摘されている通り、純粋な分離運動の成否を見極めるためには、「主動作筋以外の代償パターンを検者が徒手で軽微に制動した状態で、規定の可動域を達成できるか」を厳密に観察する必要があります。代償を使わなければ全く腕が上がらない場合はステージIIIにとどまり、わずかでも単関節の分離した筋収縮による軌道が確認できればステージIVと判定するのが臨床上の標準的な判断基準です。
また、手指の評価においても「握ることはできるが離せない」状態から「不完全ながら離せる」状態への移行は患者のADL(日常生活動作)に劇的な変化をもたらします。スプーンの保持から自力での開放が可能になる瞬間は、単なる数値の変化以上に患者の自立度を大きく押し上げるターニングポイントとなります。

【国試対策・実務直結】一発で整理できるBRSの覚え方と過去問頻出パターン
理学療法士・作業療法士の国家試験において、ブルンストロームステージは必須の得点源です。丸暗記に頼るのではなく、「共同運動の支配からいかにして単関節が解放されていくか」というバイオメカニクスの順序で整理すると記憶が強固に定着します。
国家試験対策で極めて有効な視覚的・構造的整理法は以下の通りです。
【上肢の分離運動ステップの捉え方】
・ステージIII:腕を曲げると同時に肩が外転し、肘・手首も同時に曲がってしまう(屈曲共同運動の支配下)。
・ステージIV:「身体の近く」「低めの位置」での分離動作(腰の後ろに手を回す、90°までの前方挙上、肘を曲げた状態での回内外)。
・ステージV:「身体から遠く」「高い位置」「外側」での分離動作(頭上への挙上、90°外転、肘を伸ばした状態での回内外)。
【手指の把握機能ステップの捉え方】
・ステージIII:集団握り(グーができるがパーができない)。
・ステージIV:横つまみ(鍵を持つような親指と示指側面でのつまみ、母指のわずかな開き)。
・ステージV:球握り・円柱握り(リンゴやコップを持つ把握、随意的な指の伸展)。
・ステージVI:指先つまみ・個別運動(コインをつまむ、ピアノを弾くような動作)。
【下肢の座位・立位テストの捉え方】
・ステージIV:「座位」で膝屈曲90°以上、踵をつけた足関節背屈(椅子に座ってできる動作)。
・ステージV:「立位」での膝屈曲、股関節伸展(立ち上がり重力に抗した分離動作)。
過去10年分の国試過去問を分析すると、「立位で膝を曲げるテストは何ステージか(正解:ステージV)」「手指ステージIVで可能となる把持動作はどれか(正解:横つまみ)」といった、各ステージの象徴的なテスト動作をピンポイントで問う問題が8割以上を占めています。この対比構造を脳内に焼き付けておくことが最短の攻略ルートです。
一般に知られていない盲点と臨床評価における3つの誤解
ブルンストロームステージを運用する上で、教科書的な知識のみにとらわれていると見落としがちな盲点が3つ存在します。臨床の解像度を一段引き上げるために知っておくべき事実です。
誤解1:回復は必ずステージIからVIまで一直線に進むという思い込み
すべての脳卒中患者がステージI〜VIを段階通りに通過するわけではありません。軽症例では発症初期からステージIVやVの分離運動が出現することがあり、逆に重度の錐体路完全損傷例ではステージIIIの共同運動ピークで回復がプラトー(停滞)に達することも珍しくありません。ステージが「スキップ」して回復したように見える現象は、中枢神経の損傷範囲や側副血行路の発達によって日常的に起こり得ます。
誤解2:一度到達したステージは後戻りしないという誤解
ブルンストロームステージは固定的な解剖学的ステータスではなく、患者のコンディションによって変動します。発熱、尿路感染症、過度の疲労、精神的ストレス、あるいは抗てんかん薬の調整等によって痙縮が増悪したり随意性が一時的に低下すると、見かけ上のステージがIVからIIIへと低下することがあります。体調変化に伴う一時的な機能変動と、真の不可逆的悪化を峻別する視点が欠かせません。
誤解3:BRS単体で麻痺の「実用性」まで測定できるという過信
ブルンストロームステージはあくまで「随意運動パターンの分離度」を測る指標であり、筋力(MMT)、運動速度、巧緻性、感覚障害の程度、失行の有無などは反映されません。ステージVであっても重度の深部感覚障害があれば手元を見なければ物を持てず、実用手としては機能しない事例があります。Fugl-Meyer Assessment(FMA)や上肢機能検査(STEF)などの多角的バッテリーと組み合わせて総合評価することが現代リハビリテーションの鉄則です。

【プロの結論】ブルンストローム評価を臨床で活かすべき場面と限界の見極め
半世紀にわたって臨床現場を支えてきたブルンストロームステージですが、その強みと限界を正しく理解した上で使い分ける必要があります。
ブルンストロームステージを活用すべき明確な条件
・チーム医療における共通言語としての情報共有:医師、看護師、PT、OT、ソーシャルワーカーがカンファレンスにおいて、患者の麻痺の重症度と大まかな運動能力を一瞬で把握・共有する場面で最も威力を発揮します。
・急性期〜回復期初期のゴール設定:「まずは共同運動を引き出す(ステージII〜III目標)」のか、「共同運動を抑制して分離を促す(ステージIV以上目標)」のか、治療アプローチの大枠の方向性を決定づける羅針盤となります。
他の評価法への移行や慎重な解釈が求められる条件
・生活期・外来での微細な改善の追跡:ステージVからVIの間にある微妙な速度改善や日常生活での使用頻度(実用性)の変化は、BRSの粗い6段階尺度では拾いきれません。このフェーズではMAL(Motor Activity Log)やFMAによる定量的評価へのシフトが必須です。
・ロボットリハビリや電気刺激療法(NMES)の適応判断:筋電図連動型ロボットや先進的促通反復療法の適応を見極める際は、BRSの段階にとどまらず、個別の特定筋における活動電位の有無を精密に評価する必要があります。
【ブルンストロームステージ】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:上肢・手指・下肢でステージの進み方が異なる場合、カルテにはどう記載すべきですか?
A1:ブルンストロームステージは部位ごとに完全に独立して記載します。例えば「BRS 上肢IV / 手指III / 下肢V」のように、3部位を併記するのが医療機関における標準的な記載ルールです。総合的な1つの数字として統合することはしません。
Q2:ステージIIIの屈曲共同運動と伸展共同運動はどちらが先に出現しやすいですか?
A2:一般的に、上肢においては屈曲共同運動(肘屈曲・肩外転・前腕回旋など)が優位に出現しやすく、下肢においては伸展共同運動(膝伸展・足関節底屈など)が優位になりやすい傾向があります。これは抗重力筋の緊張亢進パターンと深く連動しています。
Q3:ステージ判定のテスト動作が痛みのために遂行できない場合はどう評価しますか?
A3:肩手症候群や関節拘縮による疼痛で可動域が制限されている場合、無理に動かしてステージを下位判定するのではなく、「関節可動域制限(ROM制限)および疼痛のためテスト不能」と注記した上で、痛みのない範囲での随意筋収縮の分離度を慎重に観察して暫定評価を行います。
まとめ:片麻痺機能回復の本質を見極める評価の実践へ
ブルンストロームステージは、単なる暗記用のテスト項目ではなく、脳卒中片麻痺患者の神経学的回復の道筋を論理的に解読するための強力な臨床ツールです。痙縮の極期から分離運動の萌芽を見逃さず、適切な難易度の運動課題を設定することは、患者の脳の可塑性を最大限に引き出すための絶対条件と言えます。
各ステージの判定基準を深く腑に落とし、代償動作の有無や痙縮の質を見極める観察眼を養うことで、カルテに記すその「1つの数字」は、患者の未来を拓く確かなリハビリテーションプランへと昇華します。日々の臨床観察と客観的データに基づいた確かな評価を、ぜひ実践に役立ててください。 (出典: ブルン ストローム ステージ(Yahoo!ニュース))